1on1ミーティングの合目的な実践
その始まり
「1on1ミーティング」(One-on-One Meeting = ワンオンワン・ミーティング、ここでは「1on1」と略記)は、働き方や人材の多様化が進み現代的なマネジメント手法が進展した1970〜1980年代に、米国のテック業界で行われていたミーティング形態がその始まりとされています。
1on1のコンセプトが業界を超えて世界的に広く認知されたのは、インテル(Intel Corporation)のCEOを1987年から1998年に務めたアンドリュー・グローヴ(Andrew S. Grove)氏の著書「High Output Management」(1983年)によるところが大きいと言われています。
実施形態
1on1は「マネージャーと社員が1対1で定期的に行うミーティング」です。
どう定期的に実施するかについては、たとえばGoogleの働き方研究プロジェクト「re:Work」などの調査要約によれば、米国のテック業界では以下の実施形態が最適解であるとされています。
- 実施時間:毎週30〜60分程度
- 実施頻度:隔週で60分実施するより毎週30分実施するほうがチームの生産性と信頼関係が圧倒的に高まる
なお、「マネージャーと社員が1対1で行うミーティング」という見かけ上の実施形態が同じでも、不定期に行われる人事評価等の個人面談とは性質を異にします。
目的
1on1の目的として、以下を挙げることができます。
- 自社やチーム、仕事に対する社員の「エンゲージメント」を高めて、社員およびチームの生産性を向上させる(注1)
- マネージャーと社員との信頼や共感を構築する
- 個々の業務やチームの達成目標・進捗・最新情報を随時共有する
- 社員それぞれの成長やパフォーマンスを阻害しうる要因を把握し、燃え尽き症候群や離職等を防ぐ
- 社員の業務上の成長やキャリアの前進を後押しする
これら目的は、それぞれを別々のものと捉えるより、「社員のエンゲージメントを高める」ことを第一義の目的と捉えて、それを補強するようにその他目的をシームレスに実践するほうが理にかないます。
エンゲージメントとの相関
社員のエンゲージメント向上を第一義の目的とする合理性は、たとえば以下の調査結果に見ることができます。
ある記事では、1on1は、仕事におけるエンゲージメントを3倍以上向上させるという調査結果が紹介されています。
また、ギャラップ(GALLUP)が毎年実施している調査によれば、エンゲージメントの高いチームほど組織内でポジティブな成果を生み出す傾向が見られることが示されています。
2025年調査では、低いエンゲージメントは世界経済に対して約10兆米ドル、つまり世界のGDPの9%に相当するコストをもたらしていると推計しています。
導入上の重要点
1on1の目的に照らせば、1on1は定期的に実施することがきわめて重要です。
科学的な根拠に基づいてミーティングを効果的に設計する「ミーティング・サイエンス」(Meeting Science)の第一人者、スティーヴン・G・ロゲルバーグ(Steven G. Rogelberg)博士の著書「世界標準の1on1」などによれば、1on1を担当するマネージャーに求められる態度やスキルとして以下が重要とされています。
- オープン・マインド(注2)
→ マネージャーと社員は対等で、主役は社員である(議題の主導権は社員に持たせる)ことを原則とする - 双方向のフィードバック(注3)
→ マネージャーから社員への一方向ではなく、双方向のフィードバックを前提にする - 傾聴力
→ ただし、1on1とメンタリングを混同しないようにする - コーチングの高いスキル
→ 事前に研修やトレーニングを行い、マネージャーの意識改革や対人スキルを向上させる - 中長期的な視点
→ 直近の進捗確認は通常の報連相や会議で極力済ませて、中長期的な成長やキャリア支援に注力する - 他人事・厄介な悩み事にも共感を示せる誠実さ
→ マネージャーに過度な負担を負わせないためにも、専門家によるカウンセリング制度の設置も行う
日本での導入状況
1on1の日本での導入は2010年代からとされています。
一般公開されている情報によれば、Yahoo! Japanの2012年導入が日本での先駆とされています。
しかしながら日本の企業では、コミュニケーション下手な国民性も相俟ってか、見かけ上の実施形態だけが模倣され、「1on1」の実態を伴っていないケースが多く見受けられます。
実態を伴わないケース
1on1の実態を伴わないケースでは、たとえば以下のようなことが行われます。
- マネージャーの都合や気分で不定期に実施される
- マネージャーが対話の主導権を握り、長々と話したり社員に説教を垂れたりする
- 具体的な議題も目的もなく、ただ何かおしゃべりしてミーティング時間をやり過ごす
- 日頃ほとんどコミュニケーションを取っていないのに、ミーティングのときだけ急に親身な態度を見せる
マネージャーが自分の都合や気分を理由に実施を頻繁に変更・キャンセルして不定期にしようものなら、社員は軽視されていると感じてエンゲージメントが下がるでしょう。
日頃ろくに挨拶も返さず、すれ違う際に一言二言かけることすらしないマネージャーから「1on1をしよう」と言われても、信用できるか分からないマネージャー相手では社員は本音など言えるはずもなく、身構えて当たり障りのない表面的な会話でその場をやり過ごすだけでしょう。
そのような不毛な1on1を強制されようものなら、社員のパフォーマンスや生産性までもが低下してしまいかねません。
実際、上述の「ミーティング・サイエンス」の研究調査によれば、マネージャーの9割以上が「自分の1on1はうまくいっている」と回答する一方で、社員の約5割が「適切ではない」と低評価しているという認識のギャップが示されています。
1on1を有意にするには、日頃からマネージャーがコミュニケーションを取りに行って、最低限の信用を社員から得ていることが重要です。
最低限の信用とは
どのような状態にあれば、最低限の信用が得られていると言えるでしょうか?
ビズガイバーがオススメするもっとも分かりやすい判断方法です:
- マネージャーと社員の双方が快くランチを同席できる(同席してもいいと思う)ような親近感を持ち合わせているか?
最低限の信用が得られていれば、マネージャーがリーダーシップを実践して、社員が話しやすい・相談しやすい環境・雰囲気を作り「心理的安全性」(注4)を確保する際のハードルが大幅に下がります。
1on1に必要なリーダーシップ
1on1を担当するマネージャーが持つべきリーダーシップは、カリスマ的なリーダーシップより「サーバントリーダーシップ」がその目的に符合します。
- サーバントリーダーシップ(Servant Leadership)
トップダウンの命令や指示で相手を従わせる強権的なリーダーシップとは異なり、リーダーはまず社員への奉仕(サーバント)による支援を通じて強固な信頼関係を築き、それによって社員の主体的な協力を引き出すというリーダーシップのあり方
ただし、サーバントリーダーシップは、即断即決の意思決定には向かず、社員の甘やかし・放任につながりうるなどのリスクも指摘されています。緊急の状況や社員の成熟度などによって、リーダーシップのスタイルに柔軟性を持たせることも重要になるでしょう(注5)。
1on1で促す自律的成長
1on1で社員の自律的成長を促すには、ただベタ褒めして感覚的に褒めて伸ばそうとするより、科学的に裏付けられた学習理論である「経験学習モデル」に基づくのが効果的です。
- 経験学習モデル(Experiential Learning Model)
人が具体的な経験を次に生かして成長していくプロセスを体系化した学習理論。4つのプロセスを循環させることで自律的な成長が促されるとする- 具体的経験:実際にやってみる
- 内省的観察:経験を多角的に振り返る
- 抽象的概念化:振り返りから教訓を得る
- 能動的実験:得た教訓を次の行動で試す
1on1の役割は、マネージャーが社員に「問いかけ」を行うことによって、「経験を多角的に振り返る」(②)→「振り返りから教訓を得る」(③)プロセスを手助けすることにあります。
その社員への「問いかけ」では、ただ質問攻めにするのでなく、コーチング理論である「GROWモデル」を参考に対話を構造化すると社員の自発的な行動を促しやすくなります。
- GROWモデル(GROW Model)
対話を4つのプロセスに構造化して、相手が自ら具体的な解決策や行動にたどり着くのを促すコーチング理論- Goal(目標設定):どうなりたいか?
- Reality / Resources(現状把握と資源):何が起きているか / 何が使えるか?
- Options(選択肢の検討):どんな方法があるか?
- Will(意思決定):まずどう行動するか?
マネージャーがすぐに答えを与えるのでなく、社員が自ら答えを見つけ出して自発的に行動できるよう促すことが、社員の自律的な成長につながります。
注1)「エンゲージメント」(Engagement)とは、一般的に『自社やチーム、仕事とのつながりや関わり合いの意識、あるいはそれらへの帰属意識』を意味します。いわゆる「社員エンゲージメント」は、『社員が自分の仕事や職場にどれだけ関わり合いを感じ、熱意を持っているか』を示す指標とされます。
注2)「オープン・マインド」(Open Mind)とは、一般的に『自分の考え方や意見が正しいとの先入観を持たずに、異なる考え方や意見を理解し素直に受け入れる柔軟で寛容な心(のあり方や態度)』のことを言います。反対語は「クローズド・マインド」(Closed Mind)です。
注3)[参照] 戦略的視点#3「フィードバック」
注4)「心理的安全性」(Psychological Safety)とは、『組織やチームで、自分の意見や気持ちを誰に対しても安心して発言できる状態(ないしその度合い)』を指します。心理的安全性が高い組織やチームでは、意見等の対立があってもそれぞれの意見等が尊重され協力し合うことが期待できるため、拒絶や非難、罰を受けることを恐れることなく安心して業務に専念できるのが特徴とされます。
注5)代表的なリーダーシップ理論として「状況対応型リーダーシップ」(SL理論:Situational Leadership Theory)があります。リーダーシップのスタイルを教示型・説得型・参加型・委任型に分類し、部下の成熟度(スキルや意欲)に応じてリーダーは指示的行動と援助的行動を柔軟に組み合わせるのが望ましいとされています。
戦略的視点
1on1の目的は、「社員のエンゲージメントを高めて社員のパフォーマンスやチームの生産性を向上させる」ことを第一義として、「マネージャーと社員との信頼関係を構築する / 業務やチームの達成目標等を随時共有する / 社員の成長やパフォーマンスの阻害要因を排除して燃え尽き症候群や離職を防ぐ / 社員の業務上の成長やキャリアの前進を後押しする」ことにある。
そのためには、マネージャーは日頃から社員とコミュニケーションを取るよう努めて、最低限の信用を得ていることがまずもって必要である(最低限の信用は心理的安全性を確保する際のハードルを大幅に下げてくれる)。
そのうえで、サーバントリーダーシップを主に実践して心理的安全性を確保しながら、オープン・マインドで双方向のフィードバックを前提として傾聴し、自らのコーチングのスキルを高めつつ中長期的な社員の成長やキャリア支援の視点からその悩み事に誠実に共感を示すことが重要となる。
1on1で社員の自律的成長を促すには、ただベタ褒めして感覚的に褒めて伸ばそうとするより、科学的に裏付けられた学習理論である経験学習モデルに基づくのが効果的である。
さらに、経験学習モデルに基づいて「問いかけ」をする際は、ただ質問攻めにするのでなく、コーチング理論のGROWモデルを参考に対話を構造化すると社員の自発的な行動を促しやすくなる。