ダイバーシティが生産性に及ぼす影響
生産性に及ぼす好影響
一般に、人材の人種・ジェンダー・国籍・価値観・経歴などの多様性(ダイバーシティ)は、生産性の向上に有効な影響を及ぼすと言われています。
マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)の調査によれば、以下のように社員の多様性が進んだ企業は生産性が高い傾向にあるとされています。
- リーダーシップにおいて多様性が高い企業は、財務業績が国内業界平均のそれを上回る可能性が35%高くなる
- ジェンダーにおいて多様性が高い企業は、財務業績が国内業界平均のそれを上回る可能性が15%高くなる
好影響をもたらす理由
ダイバーシティが業績向上に貢献する理由として、一般的に以下を挙げることができます。
- 多様な視点
多様性のあるチームは、そうでないチームに比べて、様々なアイデアや問題解決のアプローチ、視点を持ち寄ることができるため、イノベーションや創造性が促進されやすい - 顧客理解の向上
多様性のある労働力は、市場の人口統計を反映したものと見ることができ、企業が顧客のニーズや好みを把握するのに役立つ - 社員体験の改善
多様性のあるすべての社員が評価され尊重される包括的な環境の形成は、社員の満足度向上と離職率低下をもたらす - ビジネス環境への適応
多様性と包括性を重視する企業は、変化の激しいビジネス環境により良く適応できるため、成功する可能性が高くなる - 社会発展への貢献
多様性と包括性を組織戦略の中心に据える企業は、社会的進歩により寄与しうる
調査結果の留意点
ただ、留意すべきは、ダイバーシティに関する調査は賛否いずれも、ひとつの国内や業種内など限られた対象について行われたものであることです。
言うなれば、期待する結果が得られる対象をあらかじめ選んだものと見ることもでき、いかなる環境下でも妥当するとは必ずしも言えないということです。
生産性に及ぼす悪影響
実際、人材とくにジェンダーの多様性は企業パフォーマンスを阻害しうるとの調査等もあります。それらによれば、
- 多様性に対する文化的・規範的認識の成熟度
ジェンダーの多様性は重要であるとの認識が文化的および規範的に未成熟な国や業種では、ジェンダーの多様性はむしろ企業パフォーマンスの阻害要因となりうる - 組織規模と迅速な意思決定の相関
組織規模が小さい(社員数が少ない)企業では、ダイバーシティはむしろ迅速な意思決定の妨げとなり、企業パフォーマンスの阻害要因となりうる
いかに経営判断するか
つまるところ、ダイバーシティを推進するにもしないにも、自社の成長フェーズや組織規模、理念、文化等を踏まえることが何より重要と言えます。
たとえば、DEI(Diversity, Equity & Inclusion = 多様性、公平性、包括性)廃止のような時の政策にただ迎合するだけの経営判断は、不本意な結果を招きかねません。
組織行動論や経営学の研究では、ダイバーシティはプラス面とマイナス面を内包する「諸刃の剣」であるとの概念理解が広く共有されています。
- ダイバーシティの「諸刃の剣」モデル
1996年の論文「Searching for Common Thread」(Frances J. Milliken and Luis L. Martins)などで提唱されている
- プラス面:イノベーション・創造性や問題解決力の向上、意思決定の質向上など
- マイナス面:コミュニケーションのコスト増大や感情的な摩擦、意思決定の遅延など
ダイバーシティをただ推進しさえすれば、自ずと生産性や企業パフォーマンスが向上するわけではありません。かえって社員間や意見の対立、企業パフォーマンスの低下を招くリスクが高まります。
コミュニケーションのコスト増大や感情的な摩擦などマイナス面の諸要因をコントロールし、企業組織の多様な価値観を統合する戦略的なマネジメントが必要(注1)となります。
注1)ここにいう戦略的なマネジメントの施策としては、たとえば包括的な環境の整備、ビジョンの共有や共通目標の設定、心理的安全性の確保などを挙げることができます。
戦略的視点
一般に、人材の人種・ジェンダー・国籍・価値観・経歴などの多様性(ダイバーシティ)に富む企業等組織では、多様化する顧客ニーズを的確に捉え、変化の激しいビジネス環境により良く適応できるため、生産性や企業パフォーマンスが向上しやすいとされている。
ただ、ダイバーシティに否定的あるいはその理解が未成熟な文化や環境では、ダイバーシティは企業パフォーマンスを阻害しうる。また、組織規模が小さい企業等では、ダイバーシティはむしろ迅速な意思決定の妨げとなり、事業成長を阻害する可能性もある。
つまり、ダイバーシティはプラス面(イノベーション・創造性や問題解決力の向上、意思決定の質向上など)とマイナス面(コミュニケーションのリスク増大や感情的な摩擦、意思決定の遅延など)を内包する「諸刃の剣」である。
企業等でのダイバーシティ推進可否の経営判断では、自社の成長フェーズや組織規模、理念、文化等を踏まえて、ダイバーシティのプラス面とマイナス面の双方を戦略的にマネジメントすることが不可欠である。