社内マーケティングの重要性
マーケティングの定義
マーケティングと言うと、日本では「売れるための仕組み(づくり)」という狭義で捉えられることが多いように見受けられます。
日本では米国のビジネスの理論やノウハウがもっぱら手本とされ導入されますが、その米国ではマーケティングはどう定義されているでしょうか。
- フィリップ・コトラー(近代マーケティングの父)
マーケティングとは「顧客にとって価値あるモノやサービスを創造し、顧客の課題を解決するすべてのプロセスである」
[出典] フィリップ・コトラー / 高岡浩三 著『マーケティングのすゝめ』 - ピーター・ドラッカー(マネジメントの巨匠)
マーケティングの目的は「販売(セリング)を不要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客を理解し、製品やサービスを顧客に合わせ、自ずから売れるようにすることである」
[出典] P.F.ドラッカー 著『マネジメント [エッセンシャル版]』 - American Marketing Association(アメリカマーケティング協会)
"Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large."
[出典] What is Marketing? - The Definitions of Marketing
日本でも以下のような公式的な定義があります。
- 日本マーケティング協会(JMA)
マーケティングとは「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」
[出典] 公益社団法人日本マーケティング協会 2024年制定定義
巷のように「売れるための仕組み(づくり)」との狭義では捉えられていないことが分かります。
組織内コミュニケーションとの違い
部門内あるいはチーム内では、組織内コミュニケーションを合目的に運用することで、部門内あるいはチーム内のメンバーのエンゲージメントを高めることができます(注1)。
部門の垣根を超えて「社員エンゲージメント」(注2)を高めて「顧客体験」(注3)の向上につなげる取り組みとして、「社内マーケティング」を挙げることができます。
社内マーケティングとは
社内マーケティングは一般的に、「インハウスマーケティング」と「インターナルマーケティング」に大別できます。
- インハウスマーケティング(In-house Marketing)
外部の代理店などを使わずに自社のリソースで行うマーケティング業務 - インターナルマーケティング(Internal Marketing)
自社の社員を対象としてそのサービスや取り組みの理解・浸透を図るマーケティング活動
ここでは後者の「インターナルマーケティング」を社内マーケティングと定義し、部門の垣根を超えたマーケティング活動の重要性に注目しています。
社内マーケティング不足の弊害
マーケティングが狭義で捉えられている社内では、マーケティングはもっぱら社外の顧客向けのものと認識されます。そのような状況では社内マーケティングが不足します。
社内マーケティングが不足すると、たとえば以下のような負の連鎖が起きることになります。
- 従業員体験の劣化
社内マーケティングの不足は、部門間の連携不全や情報分断を招き、仕事環境としての「従業員体験」(注4)を劣化させる - 社員エンゲージメントの低下
従業員体験の劣化は、会社への信頼感や主体的な貢献意欲を削ぎ、従業員満足度や「社員エンゲージメント」の低下を招く - サービス品質の悪化
社員エンゲージメントの低下は、顧客に提供する「サービス品質」の悪化につながる - 顧客満足度・顧客ロイヤルティの低下
サービス品質の悪化は顧客の期待を損ねて「顧客満足度」を低下させ、それが度重なると「顧客ロイヤルティ」(注5)も低下する - 顧客体験の劣化(業績悪化のリスク)
顧客満足度と顧客ロイヤルティの低下は全体としての「顧客体験」を劣化させ、評判悪化や顧客離れ、新規顧客コスト増大などを引き起こし、最終的に「業績悪化」のリスクを高める
この負の連鎖は、「サービス・プロフィット・チェーン」にいう好循環の負のシナリオと言えるでしょう。
- サービス・プロフィット・チェーン(Service Profit Chain)
社内サービス品質が向上して「従業員体験」とりわけ「社員エンゲージメント」が高まると、それが「顧客体験」に好影響を与え、最終的に企業の収益向上や持続的成長につながるという一連の好循環を示す組織行動論・経営学の理論
社内マーケティングの施策
このような負の連鎖を防ぐには、社内マーケティングとして社内全体で顧客の課題を解決するプロセスにフォーカスして、社員エンゲージメントを高めることがまず必要になります。
たとえば以下のような段階を踏まえた施策を講じることができます。
- 顧客中心の企業文化の醸成
全社員が顧客のニーズを常に最優先に考え行動することを奨励し、顧客中心の企業文化を醸成する。高い顧客体験を獲得した成功事例を定期的に社内共有することで、社員エンゲージメントの向上につなげる - 部門間コミュニケーションの円滑化
各部門が社内ニュースレターなど社内向け広報を活発に行い、各部門のマーケティング活動や成功事例を社内に周知させる。さらに、それらに対するフィードバックを受け取る仕組みを設けることで、迅速なカイゼンやアップデートを可能にする - データ活用の促進
顧客データや市場分析結果を活用して、社員が顧客のニーズ(とくに顕在ニーズ)を具体的に理解・共有できるようにする。データに基づいた意思決定を行うことで顧客の声を的確に反映させる - 目標の共有
社内マーケティングの目標を社内共有し、各部門がその目標にどのように貢献できるかを考えられるようにする。社内共通の目標を設定することで、社員は部門の垣根を超えて協力しやすくなる - 混成チームの編成
ジョブローテーションの一環として異なる部門のメンバーを集めた混成チーム(クロスファンクショナルチーム)を編成し、顧客の課題解決に向けた共同作業を推進する。それにより部門間のコミュニケーションや情報共有が促され、社内の連携が強化される
注1)[参照] 戦略的視点#6「チームワーク力の秘訣」
注2)「エンゲージメント」(Engagement)とは、一般的に『自社やチーム、仕事とのつながりや関わり合いの意識、あるいはそれらへの帰属意識』を意味します。「社員エンゲージメント」は、『社員が自分の仕事や職場にどれだけ関わり合いを感じ、熱意を持っているか』を示す指標とされます。
注3)「顧客体験」(Customer Experience)とは、『顧客がサービスを知ってから利用し最終的に手放すまでのすべてのプロセスで得る包括的な認識や実感』を意味します。
注4)「従業員体験」(Employee Experience)とは、『従業員がその企業への就職を希望してから入社し最終的に退職するまでのすべてのプロセスで得る包括的な認識や実感』を意味します。
注5)「顧客ロイヤルティ」(Customer Loyalty)とは、『顧客が特定の企業やブランド、サービスに対して抱く信頼や愛着』を意味します。なお、類似の用語「ロイヤリティ」(Royalty)は、特許権・商標権・著作権などの使用料を意味します。
戦略的視点
企業が顧客を対象として行う通常のマーケティングのほかに、自社の社員を対象としてそのサービスや取り組みの理解・浸透を図るマーケティング活動、すなわち社内マーケティング(インターナルマーケティング)がある。
部門の垣根を超えて社員エンゲージメントを高めて顧客体験を向上させるには社内マーケティングが不可欠であり、それにより部門間のコミュニケーションや情報共有が促され、社内の連携が強化される。
社内マーケティングの不足は、社員エンゲージメントを低下させ顧客体験の劣化を招く。それは最終的に企業の業績悪化のリスクを高めるという負の連鎖を引き起こす。
負の連鎖を防ぐには、社内マーケティングとして社内全体で顧客の課題を解決するプロセスにフォーカスして、社員エンゲージメントを高めることがまず必要である。
そのためには、たとえば次のような段階を踏まえた施策を講じる:① 顧客中心の企業文化を土壌として、② 社内向け広報など部門間コミュニケーションを活発に行い、③ 顧客データや市場分析結果などデータに基づいて顧客の声を丁寧に拾い上げて共有し、④ 社内共通の目標のもと、⑤ 異なる部門のメンバーを集めた混成チームを編成して顧客の課題解決に共同で取り組む