チームワーク力を最大化する秘訣
職場トラブルの主たる原因
職場のトラブルの大半は、コミュニケーション不足(あるいはその人間関係)が原因と言われています。チームワークを妨げるのもコミュニケーション不足が主たる原因と言っても過言ではないでしょう。
たとえば、HR総研が日本の企業を対象に行った「社内コミュニケーションに関するアンケート2026 結果レポート」(2026年4月公表)によれば、以下の結果が明らかにされています。
- [社内コミュニケーションに課題があると回答した割合]
大企業:64%、中堅企業:47%、中小企業:58% - [部門間のコミュニケーションに課題があると回答した割合]
大企業:69%、中堅企業:71%、中小企業:62% - [経営層と社員間のコミュニケーションに課題があると回答した割合]
大企業:49%、中堅企業:71%、中小企業:67%
2016年から定期的に実施されているこの一連のアンケートから分かるのは、過半数の企業が社内でのコミュニケーションに課題があると認識しながら解決できずにいるということです。
チームワーク力を最大化するには
多くの企業等の組織内で通常的に行われているコミュニケーションとして、以下の5つがあります。
- メンタリング(注1)
- 1on1ミーティング(注2)
- OJT(注3)
- フィードバック(注4)
- 自然発生的な雑談(注5)
企業等の組織は、気の合う仲間同士が気の向くままにただ群れ合っただけの「仲良しサークル」とは異なります。
したがって組織内でのコミュニケーションも、気の向くままに漫然とただ場数さえ踏めばあとは自ずと結束が固まってチームワーク力が高まるものではありません。
チームの段階的な発達プロセスを理論化した「タックマンモデル」(Tuckman's Stages of Group Development)によれば、メンバー間のコミュニケーションの質向上と深化が、チームの発達を可能にしてそのパフォーマンスや生産性を最大化することが示されています。
チームワーク力を最大化するにはコミュニケーションの質向上と深化が不可欠であり、それは組織内のコミュニケーションを合目的に運用することで実現可能です。
合目的な運用とは
合目的に運用するには、5つの組織内コミュニケーションの目的や秘匿性などの相違点を(企業それぞれの捉え方・視点で)明確にすることがまず必要になります。
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合目的な運用例
一例として、たとえば以下のように合目的に運用し分けることが可能です。
- メンタリング
メンティーは新卒・若手社員に限らず、全社員がその対象。メンタリングの内容には職場の人間関係の悩みなど業務に遠因的に影響しうるメンタル面のデリケート・プライベートな事柄が含まれる。メンターは、メンティーとの間に業務上の利害関係のない中立的な良き理解者で、たとえ直属の上司や最高責任者に対してもメンタリング内容を原則として口外しない守秘義務を負う - 1on1ミーティング
業務上の目標達成や社員・組織の生産性・業績向上を目的として行われるのだから、1on1ミーティングの内容は業務や業績に直接的に関係しうる事柄にフォーカスされる。業務・業績に関係する以上、1on1ミーティング内容は直属の上司や最高責任者には共有される - OJT
知識やスキルの早期習得のため実務を通して直接指導するものだが、OJTによるマンツーマンのコミュニケーションは上司・先輩と部下・後輩間の信頼関係を築く一助となる。OJT内容は人材育成・社員教育の手法ないしプロセスの一部としてチームおよび社内で共有される - フィードバック
業務上の改善点の指摘・指導のみならず称賛点についても、フィードバックは組織内コミュニケーションの基盤として全社内で双方向的かつフラットに交わされる。フィードバック内容は業務上のものである限りチームや社内で原則として共有される - 自然発生的な雑談
業務やその緊張感の妨げにならない適度な雑談は業務マニュアルにない暗黙知の共有や組織内の結束感、チームワーク力を高めるのに役立つ。雑談の内容は光陰矢の如く社内に広まる。たとえば休憩時間帯を同じくしたり休憩室にコーヒーマシンを設置したりする運用で、社員同士の雑談機会が増えるようにする
段階的・多層的な機能
この5つの組織内コミュニケーションは、「組織の成長循環モデル」(Theory of Success)にいう「4つの質」を高める段階的・多層的なサブシステムとして機能します(注6)。
- 組織の成長循環モデル(Theory of Success)
「関係の質」を起点として、4つの質の連鎖的な好循環が組織の持続的な生産性・業績向上や成長をもたらすとする因果関係モデル
- 関係の質:メンバー間の相互理解、信頼関係、心理的安全性など
- 思考の質:前向きな捉え方、当事者意識、新しいアイデアを生み出す創造性など
- 行動の質:自発的・積極的なチャレンジ、メンバー相互の協力・支援行動、アジャイルな行動など
- 結果の質:数値目標の達成、生産性や業績の向上、持続的な成長など
さらに、この5つの組織内コミュニケーションは、全社員に対して一律の時間を割り当てるのでなく、組織の成長フェーズや各社員の成熟度など諸状況に応じて割り当てのグラデーションを変えることも重要になります。
文化や風土に馴染む導入
ただし、ここでの記述通りの形態や設計で導入しなければ組織内コミュニケーションが立ち行かなくなるというわけではありません。
企業や組織それぞれの文化や風土に馴染み、目的が明確化されている形態や設計(たとえば「仕事の流儀を深く語り合える飲み会」や「フラットに意見を交わせるランチミーティング」など)がすでにあるならば、それで充分に代替可能です。
「組織文化論」(Organizational Culture)によれば、制度の形式だけ外部から導入しても、その組織の「基本的仮定」(暗黙の文化や風土)に合致していなければ機能しないことが指摘されています。
つまり、組織内コミュニケーションのあり方という制度を変えるには、1on1ミーティングなどという形式だけでなく、組織の根底にある基本的仮定にまでアプローチしてその文化や風土から掘り返す必要があります(注7)。
注1)企業における「メンタリング」(Mentoring)は、1980年代の米国内での導入以降に世界的にも広まり、一般的に『先輩社員が後輩や新人に指導や支援を継続的に行うもの。職務上の直接的な指導だけでなく、マナーや人間関係なども日常的なコミュニケーションを通して支援する人事制度のひとつ』とされています。「メンター」(Mentor)とは『良き指導者、優れた助言者』を意味し、指導・助言を受ける側は「メンティー」(Mentee)または「プロテジェ」(Protégé)と呼ばれます。
注2)[参照] 戦略的視点#5「1on1ミーティング」
注3)「OJT」(On-the-Job Training = オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、『直属の上司・先輩が実務を通して直接指導することにより、業務上の戦力的な知識やスキルを部下・後輩に早期習得させる』研修手法です。実務を離れて業務に必要な教育研修を通常は座学で行う「Off-JT」(Off-the-Job Training = オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)と組み合わせて実施されるのが一般的です。
注4)[参照] 戦略的視点#3「フィードバック」
注5)職場での雑談は、上記のその他4つのコミュニケーションのように実施形態に固有名を付して他と区別的に運用するものではなく、性質を異にします。しかしながら、部門や職位の垣根を超えた自然発生的な何気ない雑談は、業務上のアイデアや課題解決のヒント、チームワーク向上につながるという研究結果(ウォーターサーバー効果)が知られています。
注6)5つの組織内コミュニケーションと4つの質とは1対1対応の関係ではなく、たとえばフィードバックは4つの質すべてで多層的に機能します。
注7)[参照] 戦略的視点#10「引き算の組織行動選択」
戦略的視点
職場のトラブルの大半はコミュニケーション不足(あるいはその人間関係)が原因であり、チームワークを妨げるのもコミュニケーション不足が主たる原因と言える。
チームワーク力を最大化するにはコミュニケーションの質向上と深化が不可欠であり、それは組織内のコミュニケーションを合目的に運用することで実現できる。
具体的には、合目的な運用では次の5つの組織内コミュニケーションの相違点を明確にした段階的・多層的な運用設計が重要となる:① 部門や職位の垣根を超えた「自然発生的な雑談」が何気なく生まれるような時間的条件・物理的設備を実装する、②「フィードバック」を全社員が当事者の双方向的かつフラットなコミュニケーションの基盤として全社内で浸透させる、③ 新卒・中途入社の新入社員に対しては「OJT」を集中的に行い、早期戦力化と職場への定着とを促進する、④ 全社員を対象とした「1on1ミーティング」により社員のエンゲージメントを高めて、そのパフォーマンスや組織の生産性を向上させる、⑤ 業務や業績に直接的には関係しないが、仕事・職場での悩み事など中立的な理解や助言等を得て自発的に解決に至るのが望ましい社員個人のプライバシーにも関わりうる懸案事項については、「メンタリング」(クリティカルな事項の場合は専門家によるカウンセリング)によりサポートを行う
ただし、これら5つをこのままの形態や設計で導入することは必須ではない。企業や組織それぞれの文化や風土に馴染み、目的が明確化されている形態や設計がすでにあるならば、それで充分に代替可能である。